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歴史と暮らしが交わる場所 ― 江田島フィールドワーク

広島湾に浮かぶ江田島へ、フィールドワークで足を運びました。現在は呉市から音戸大橋や早瀬大橋を通じて陸路でつながり、日常生活の動線に組み込まれていますが、島としての歴史や文化は今なお色濃く残っています。

江田島は明治期以降、旧海軍兵学校が置かれ、全国から集められた若者が海軍将校としての教育を受けた地でした。兵学校は1888年に東京・築地から移転し、終戦の1945年に閉鎖。その後、1956年には海上自衛隊第1術科学校として再び教育機能が開始され、現在に至るまで海洋防衛に関わる人材育成の場となっています。敷地内の教育参考館には約16,000点の資料が保存・公開され、当時の貴重な歴史資料を目にすることができます。

また、戦時末期には江田島や対岸の呉軍港一帯が空襲にさらされ、戦争の記憶を背負った場所でもあります。今回の訪問でも、地域の風景の中に歴史の痕跡が点在していることを実感しました。

一方で、江田島は近年移住先としても注目されています。市の集計によると、平成28年度以降、累計で254世帯・548名が移住(令和6年度2月末時点)。そのうち県外からのIターンは全体の約4分の1を占めるとされ、自然環境や生活環境に魅力を感じて移住する人々が増えています。中には東京から転職せずに移住したIT企業メンバーや、都市部から海と自然を求めて起業・活動を始めた人々の姿も見られます。地域には「空き家バンク」や移住支援の仕組みも整い、移住者が地域の担い手となる流れが少しずつ形作られています。

移住者:戸川幸一郎さん

天狗岩へは、呉市から移住された美術作家の戸川幸一郎さんに案内していただきました。戸川さんは江田島で創作活動を続けながら、子どもからお年寄りまでを対象に「遊びを通じた学び」の場を広げています。自然とアートを結びつけ、地域に根ざした活動を展開するその姿には、島での豊かな暮らしのヒントが感じられました。

Yokosuka1953上映会と懇親会@どろんこ園

さらに今回の滞在中には、木川剛志先生が監督を務められた映画『Yokosuka1953』の上映会にも参加しました。立役者となったのは、木川先生の後輩であり、龍谷大学特命准教授として地域連携に取り組まれている谷村仰仕さんです。谷村さんは現在、呉工業高等専門学校の地域連携コーディネーターも務められており、江田島に移住して活動されています。上映会は、江田島の真宗大谷派・明慶寺の講堂をお借りし、谷村さん同様に移住してこられた方々を中心に、地域の人々と共に開催されました。

上映会の後には、お寺近くの「どろんこ園」に場所を移し、移住者の方々との交流会も行われました。ここで交わされたお話からは、江田島の自然に惹かれて来られたこと、地域のみんなで子育てしている感じや暮らしの安心感、地域の人々とのつながりの心地よさなど、実際に住んでいるからこそ語れる魅力が伝わってきました。映画をきっかけに集い、その後の対話を通じて「江田島で暮らす」というリアルな姿に触れることができたのは、何より貴重な経験でした。

江田島は、軍都としての歴史、移住者による新しい暮らしの実践、そして芸術や文化を通じた地域交流が共存する場所です。今回の経験を活かし、今後の離島研究における新たなヒントとして位置づけていきたいと考えています。


平和記念公園

今回のフィールドワークは、戦後80年という歴史の旅でもありました。江田島に入る前日には、初めて広島平和記念公園を訪れ、原爆の悲惨さと平和への祈りに静かに思いを寄せました。

世界では今なお戦争や対立が続いています。しかし、私たち研究者にできるのは、地域の歴史や文化を記録し、次世代へとつなげながら、人々が豊かに、心穏やかに暮らせる未来を形づくるための知見を重ねていくことだと感じています。

江田島での学びと出会いを大切にしながら、この経験を平和で持続可能な社会を考える一助として活かしていきたいと思います。

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